太陽光発電所のケーブル盗難対策 —
フェンス・保険・監視の選び方
銅ケーブルの盗難が続き、対策商材の売り込みも増えました。フェンス、センサー、カメラ、そして「保険とセット」を謳うパッケージ。判断に迷うオーナーは多いと思います。
当社が保有する発電所も、2026年2月に被害に遭いました。下の写真は、被害を確認した直後に現地で撮影したものです。低圧の発電所で典型的に狙われるとされる、引込柱まわりの様子です。
先に結論を書きます。法令が求めている柵や囲いは、感電などの危険を防ぐために定められたものです。防犯性能の基準ではありません。ここを取り違えたまま「法令に適合しています」という説明を聞くと、盗難への強さまで担保されているように錯覚します。まずこの前提を外してから、対策を選ぶ必要があります。
1.被害は大きく減った。だからこそ注意がいる
まず良い知らせから。警察庁の統計によれば、太陽光発電施設における金属ケーブル窃盗の認知件数は、2025年に3,856件。前年比で3,198件減、45.3%の大幅な減少です。前年の2024年は7,054件でしたから、1年で半分近くまで下がったことになります。買い取り側への規制強化や対策の普及が効いている可能性があります。
ここで注意したいのは、この大きな減少が、対策商材の効果を見えにくくしていることです。何もしなくても被害は半減した年でした。「導入したら被害がゼロになった」という説明を受けたとき、それが商材の効果なのか、社会全体の変化なのかを、実績件数だけでは区別できません。この点は後で詳しく触れます。
もう一つ。減少は喜ばしいことですが、被害が消えたわけではありません。2025年でも3,856件が発生しています。1件当たりの損失が大きい——後述のとおり復旧費用と停止期間の売電損失を合わせると数百万円規模になり得る——のがこの被害の特徴です。発生頻度ではなく1件当たりの影響で見る必要があります。
2.法令の柵は「危険防止」のためのもの
高圧・特別高圧の屋外発電所には、以前から「さく、へい等」の設置と立入禁止表示、出入口の施錠が義務づけられています(電気設備に関する技術基準を定める省令 第23条、電技解釈 第38条)。
低圧側については、2024年10月1日施行の改正で「発電用太陽電池設備に関する技術基準を定める省令」に第3条の2が加わりました。ここは正確に読む必要があります。条文が求めているのは「柵塀の設置」ではなく、危険である旨の表示と、取扱者以外が容易に接近しないようにする『適切な措置』です。条の見出しも「取扱者以外の者に対する危険防止措置」で、目的は感電などの危険防止であり、盗難防止ではありません。
そして高圧側の規定にも、高さ・材質・切断されにくさについての数値要件はほとんどありません(特別高圧の一部を除く)。「法令の基準を満たしたフェンス」は、法令が求める保安上の要件を満たしているという意味であって、侵入を防ぐ性能を保証するものではないのです。
誤解しないでいただきたいのですが、柵そのものが無意味だという話ではありません。後で見るとおり、業界団体も警備会社もフェンスを対策の一つとして推奨しています。ここで言いたいのは「法令適合=防犯性能の担保」ではないということだけです。
3.保険が引き受けなくなり、「施工+補償」の商材が生まれた
業界団体が2024年10月に公表した要望書によれば、大手保険会社は同年から引受条件を大幅に見直しており、新規の案件では原則として盗難を不担保とする対応が取られているとされています。すでに契約済みのものがどうなるかは契約ごとに異なりますが、これから発電所を持つ人にとっては、従来の保険で守られていた部分に穴が空いたことになります。
その空白を埋める形で登場したのが、「物理的な盗難対策の施工を条件に、補償を付ける」というパッケージ商材です。当社が公開情報で確認した範囲でも、免責0円・限度額1,500万円といった条件のもの、月額5,000円程度から始められるもの、O&M契約とセットのものなど、内容はさまざまでした。
なお「フェンスを設置すれば保険が付く」という形の商材は、今回の調査では確認できませんでした。確認した防犯フェンス4製品に付いていたのは、いずれも錆や形状崩壊に対する10年・20年の製品保証であって、盗難の補償ではありません。実在するのは、フェンスではなくケーブルそのものの防護施工を条件とするタイプです。
4.「補償が付きます」と言われたら、この4点を聞く
ここが今回いちばんお伝えしたい点です。当社が公開情報の範囲で確認した5つの補償パッケージでは、いずれも各社のウェブサイト上で引受保険会社の名前が示されていませんでした。また少なくとも2つは、補償の内容が「盗難されたら製品代金や施工費を返金する」というもので、損害を補償するものとは異なっていました。
これらが法的にどう位置づけられるのか、当社は保険の専門家ではないので判断できません。ただ、「補償が付く」という言葉だけでは中身が分からないことは確かです。損害保険であれば保険業法上の規律が及び、引受会社が責任を負います。事業者が自ら約束する返金保証であれば、支払う相手はその事業者自身です。事業者が支払えなくなれば、約束が残っていても回収は難しくなります。契約前に、どちらなのかを文書で確認しておく価値があります。
- 引受保険会社はどこですか — 損害保険であれば引受会社が存在します
- 損害保険ですか、御社が約束する補償・返金保証ですか — 支払われるのが「被った損害」なのか「支払った製品代金・施工費」なのかも確認します
- 支払限度額と免責金額はいくらですか — 限度額が復旧費用に届かなければ差額は自己負担です
- 御社が事業を続けられなくなった場合、補償はどうなりますか — 独自保証の場合、ここが最大のリスクです
いずれも、まっとうな事業者であれば答えられる質問です。答えを渋る相手であれば、それ自体が判断材料になります。
5.「対策として挙がっている」と「特に有効」は別
対策の有効性について、比較的信頼できる評価は多くありません。そのなかで日本損害保険協会(損害保険会社の業界団体)が2024年2月に公表した報告書は、参考になります。
この報告書は盗難対策の例として、防犯カメラ・機械警備・24時間有人警備の導入などを挙げています。フェンスの設置も海外事例のページで触れられています。そのうえで、列挙した対策の末尾にこう注記しています。
「※特に有効な対策は、ケーブルのアルミニウムへの置換および24時間有人警備の導入。」
読み取れるのは、「対策の選択肢として挙がっているか」と「特に有効とされているか」は別だということです。カメラも機械警備もフェンスも対策例には入っていますが、「特に有効」として名指しされたのは、ケーブルそのものをアルミに替えることと、24時間人が常駐することの2つでした。
太陽光発電協会などのガイドラインでは、対策が性質ごとに整理されています。ケーブルそのものを守る手立て——アルミケーブルの採用、ケーブルの埋設、露出配管のコンクリートカバー、ハンドホールの物理的対策、特殊鍵への変更——が「ハード対策」。より強固なフェンスの採用は、カメラや音光威嚇、看板、草刈りとともに「ソフト対策」に分類されています。ただしこれは性質による分類であって、優先順位を示したものではありません。
6.警備会社自身が「銀の弾丸はない」と書いている
2024年11月に太陽光発電協会などのセミナーで、警備業大手が「警備事業から見たリスクの考え方」と題した資料を配布しています。売る側の資料でありながら、営業トークでは見られない率直な記述が並んでいます。
この資料は、対策として「①フェンスを強化する」を先頭に複数の手段を挙げたうえで、次のように書いています。
- 「銀の弾丸はありません」
- 「※近年は、監視カメラ設置自体は脅威を減らす効果は薄れてきています」
- 「太陽光発電所における明確な防犯基準は現時点ではありません。(技術基準は存在しますが)」
機械警備の限界についても具体的です。屋外のため雑草・太陽光・野生動物・天候でセンサーの誤報が発生しやすいこと、犯人が下見でわざとセンサーを鳴らす場合を見分ける必要があること、人の多い場所から離れた立地のため到着に時間がかかり、敷地が広いため検知原因の確認にも時間がかかること。同資料は「様々な手法をくみあわせて対策を行うことが必要」と結論づけています。
売る側が自ら限界を明示している。これは信頼できる情報の書き方だと思います。逆に言えば、「これを入れれば安心です」と単独の商材で言い切る説明のほうを疑うべきだということです。
7.「導入後、被害ゼロです」の読み方
対策商材の説明でよく見るのが、「導入実績◯件、うち被害ゼロ」という形の訴求です。これは事実の報告ではあるのですが、そのままでは効果の証明になりません。
理由は第1章で触れたとおりです。同じ期間に、太陽光の金属ケーブル窃盗そのものが45.3%減っています。加えて買い取り側への規制強化も進みました。つまり「導入した発電所で被害が起きていない」ことの原因が、その商材なのか、社会全体の変化なのかを、実績件数だけでは区別できません。区別するには導入していない発電所と比べた比較データが必要ですが、今回の調査では、第三者による比較データは見つかりませんでした。
これは商材が無効だという意味ではありません。効果があるかもしれないが、提示されている数字からは判断できない、ということです。売り手に悪意がなくても、この種の実績値は構造上そうなります。
同様に、センサーやAIカメラの誤報率を公表している事業者も、今回の調査では確認できませんでした。各社「AIにより誤報を抑制」という定性的な表現にとどまります。一方で先ほどの警備会社の資料は、屋外での誤報の難しさを具体的に書いていました。判断材料として、こうした不利な情報まで開示している資料のほうが信頼できると思います。
8.アルミケーブルへの置換で気をつける点
損保協会が「特に有効」と挙げたアルミ化ですが、実務上の制約がいくつかあります。
まず置き換えられない区間があります。国内で流通するアルミ導体ケーブル(規格JCS 4348)は、消防用ケーブルと太陽光の1500V直流用ケーブル(PV-CQ)を適用範囲から除いています。つまりパネルから集電箱、集電箱からPCSまでの直流側は、現状そのままアルミに置き換えることができません。
次に「アルミは銅の3分の1の価格」という説明を、そのまま完成品の価格差と受け取らないこと。その比率は地金や建値の話です。アルミは導電率が低いため100mm²以下で1サイズ、150mm²以上で2サイズ太くする必要があり、さらに銅とアルミの接続部は電食が起きるため専用の端末や工具が要ります。既設の配管が細くて入らなければ配管ごと更新です。実際の差額は見積で確認してください。
施工面では、導体表面の酸化被膜を除去するブラッシングが必須になるなど、銅とは勝手が違います。国内での施工事例がまだ少なく、メーカー同士で使用確認をしたものに限って品質を担保する、という運用も行われています。アルミ化に対応できる施工業者かどうかを確認したうえで発注するのが安全です。
なお国内で流通するアルミケーブルはシースが青色のものが増えています。見た目で銅でないと分かるため、転売されにくくする狙いがあると説明されています。
9.止まっている間の売電は、戻ってこない
意外に知られていないのが、FIT制度の調達期間の扱いです。再エネ特措法では、調達期間は「供給の開始の時から」起算すると定められています。盗難で発電が止まっていた期間を除外したり、その分だけ期間を延長したりする規定は、法律にも施行規則にもありません。止まっていた間の売電機会は、そのまま失われます。
そして復旧には時間がかかります。O&M事業者の説明によれば、現地調査から見積、検討、資材手配、工事までで3〜4か月、場合によってはそれ以上。標準的な工程でも、ケーブルの手配だけで1〜2か月を見込むとされています。地中配線を切られた場合は掘削が必要になり、復旧費用が数百万円規模になることもあると報告されています。
つまり被害額は「盗まれた銅の値段」ではありません。復旧工事費と、止まっている数か月分の売電収入の合計で考える必要があります。この金額と対策費用を並べて、初めて費用対効果の話ができます。
まとめ — オーナーが最初にすること
対策商材を比べる前に、次の3つを確認することをお勧めします。
- 自分の発電所で狙われる箇所を特定する。低圧なら引込柱の一次側管路、高圧なら集電箱とPCSの間の管路が代表的です。太くて重い幹線が狙われます
- 被害額を「復旧費+停止期間の売電損失」で見積もる。この金額が、対策にかけてよい費用の上限を決めます
- 「補償付き」と言われたら、前述の4点を聞く。保険なのか返金保証なのかを、契約前に文書で確認します
そのうえで対策を選ぶなら、単独の商材で完結させようとしないことです。今回参照した資料は、立場の違いを超えて同じことを言っていました。損保協会は「特に有効」としてアルミ化と24時間有人警備を挙げ、警備会社は「銀の弾丸はありません」「様々な手法をくみあわせて対策を行うことが必要」と書き、業界団体はフェンス・カメラ・ケーブルの防護をいずれも推奨しています。
そして業界団体は、「配線を地下埋設配管していても抜き出されるケースがあります」として、配線を複数箇所で固定すること、ハンドホールに強固なロックを設置することを促しています。有効とされる対策にも、それ単体では抜け道があるということです。
サンリー合同会社は、自ら太陽光発電施設を保有・運営する立場から、
発電所のメンテナンスや、購入・運営に関するセカンドオピニオンを承っています。