中国・韓国からの集客は、Google対策だけでは届かない
訪日客向けにサイトを多言語化したのに、中国や韓国からの流入がほとんど増えない。そういう相談を受けることがあります。
原因は翻訳の質ではないことが多い。この2つの市場では、日本で通用するウェブの前提そのものが違います。中国では2012年からGoogleの検索が遮断されており、サイトを中国国内に置くには行政手続きが要ります。韓国では検索の主役がNaverで、そこは検索結果の並び順をNaverが決める世界です。
当社は、この2つの市場に向けた集客に自ら取り組んだことがあります。そのときに調べ直した内容を、一次情報にあたって整理しました。日本語で流通している解説には、公式ドキュメントを読むと事実と違うものが混ざっています。その訂正も含めて書きます。
1.まず、シェアの数字は信じる前に出典を見る
韓国の検索シェアを調べると、資料によって数字がまるで違います。これは誰かが間違っているのではなく、測り方が違うためです。
| 調査 | 条件 | Naver | Daum | |
|---|---|---|---|---|
| 韓国言論振興財団 『2025 言論受容者調査』 | 標本6,000名の対面面接 (複数回答) | 63.9% | 17.5% | 16.5% |
| StatCounter 2026年7月 | 全デバイス | 40.87% | — | 49.52% |
| StatCounter 2026年7月 | デスクトップのみ | 20.01% | — | 66.45% |
同じ市場について、Naverのシェアが20%とも64%とも読める状態です。なお言論受容者調査では、Daum(17.5%)がGoogleを上回って2位です。StatCounterが数えているのは「検索結果から外部サイトへ移動した回数」で、しかも移動先にStatCounterの計測タグが入っている場合に限られます(同社のFAQに明記されています)。一方の言論受容者調査は「利用しているものを挙げてもらった回数」です。数えている対象がそもそも別物です。
Naverは検索結果からブログやカフェ(Naver Cafe。会員制のコミュニティ掲示板です)といった自社サービスへ遷移することが多く、外部サイトへの移動が発生しにくい——という説明は成り立ちますが、これは当社の解釈であって、両社が文書化しているものではありません。
2.中国では、そもそもGoogleが見えていない
Freedom House の2024年版の調査によれば、Googleの検索は2012年から中国本土で遮断されているとされます。あわせてFacebook、Instagram、YouTube、WhatsApp、Telegram、そしてLINEも遮断対象として名指しされています。
よく「Googleは2010年に中国から撤退した」と書かれますが、撤退と遮断は別の出来事です。2010年に起きたのは検閲付き検索サービスからの撤退で、本土からのアクセス自体が遮断されるようになったのは2012年からです。
もう1つ、見落とされやすい影響があります。米国通商代表部の報告書は、遮断そのものに加えて「中国内外に出入りする全トラフィックをフィルタリングすることによる性能劣化」が越境サービスの提供を著しく損なうと指摘しています。つまり遮断されていないサイトであっても、中国から見ると遅くなりえます。
3.ICP備案 — サイトを置く前に制度の壁がある
中国本土のサーバーでウェブサイトを運用するには、ICP備案という行政手続きが必要です。根拠は《互聯網信息服務管理弁法》(国務院令第292号)第四条で、営利目的のサービスは許可制、非営利は届出制とされ、いずれの手続きも経ずにインターネット情報サービスを行ってはならないと定められています。
ここから先は法令の条文ではなく、クラウド事業者が公開している手続き案内に基づく実務上の話です。日本の事業者にとって壁になるのは次の点です。
- Alibaba Cloud の案内では中国本土に登記された事業体が必要とされています。日本法人のみでは手続きを進められないことになります
- 香港や海外リージョンのサーバーは備案に使えません(Tencent Cloud の公式案内)
- 備案していないドメインが本土のサーバーを指していると、クラウド事業者側の監視システムが自動的に検知してアクセスを遮断します(Alibaba Cloud の公式案内)
最後の点は誤解されがちですが、この遮断は国家が行うものではなく事業者側の自動処理です。制度に従わないサーバーを置くと、国の検閲を待つまでもなく止まります。
現実的な判断としては、中国本土にサーバーを置くかどうかを最初に決めることになります。置かない場合、次章の速度の問題を抱えたまま戦うことになります。
4.百度について、日本語の解説に混ざっている誤り
百度対策を調べると、いくつか繰り返し見かける説明があります。公式ドキュメントを読むと、事実と違うものがあります。
誤り①「sitemapの提出には権限が必要」
百度の公式ヘルプには、XML形式とテキスト形式に対応し、提出数に制限はないと書かれています。必要なのはサイトの所有権確認だけです。権限が要るのは快速収録(インデックスへの優先登録機能)という別の機能のほうで、これは提携先や施策参加者に付与されるものです。この2つが混同されているようです。
誤り②「百度は海外サーバーのサイトを冷遇する」
百度は2014年更新の公式ガイドで、これを明確に否定しています。要旨は「海外サイトへの差別はない。ただしBaiduspiderのサーバーは中国国内にあるため、国内から到達できないコンテンツはクロールできない。国内から正常にアクセスできるなら同等に扱う」というものです。
つまり問題はホスティング先そのものではなく、中国国内から普通に見えるかどうかです。
本当の壁は、おそらく速度です
百度はモバイル向けの品質基準として、ファーストビューの表示を1秒以内に完了させることを求めています。以前の基準は3秒でしたから、大きく厳格化されました。
日本のサーバーに置いたまま、中国本土からこの1秒を満たすのは容易ではないと考えられます。ただし百度が「海外サーバーでは基準を満たせない」と明言した文書は見当たりませんので、ここは当社の推測です。実際にどうなるかは、対象サイトで計測して判断してください。
5.Naverは「タブの世界」で、並び順を決めるのはNaver
Naverの検索結果は、日本のGoogleのような単一のリンク一覧ではありません。ブログ、カフェ(コミュニティ掲示板)、知識iN(Q&Aサービス)、ショッピングといったコレクション(タブ)単位で構成されます。
そして重要なのは、Naverの公式ブログが2026年6月時点で「タブは検索語の性格と利用パターンを反映し、最も適した順序で提供される」と説明していることです。どのタブを上に出すかはNaver側が決めます。
外部サイトの扱いについては、公式のウェブマスターガイドに裁量に関する記述があります。「例外的に」公共機関や教育機関など公共財的な性格のサイト、利用者の選好が高いサイトについては「内部方針に従って」検索に反映されうる、と書かれています。例外扱いとはいえ、裁量の余地が公式に明記されているわけです。
評価されるのはページではなく「チャンネル」
Naverの品質評価(C-rank)について、公式FAQは「特定のテーマについて継続的に良質な文章を書いてきたチャンネル」が、より頻繁に引用されうる、と説明しています。
1本の記事を作り込めば上位に出る、という発想が通じにくい。同じテーマで書き続けた蓄積が評価単位になります。短期のキャンペーンより、継続の設計が要る構造です。
技術面で引っかかりやすい2点
- サイト登録はホスト単位のみ。サブディレクトリ(
example.com/koのような形)は登録できません。韓国語版をサブディレクトリで作る設計だと、この時点で詰まります - JavaScriptに依存したサイトについて、公式ガイドに明示的な警告があります。本文をJavaScriptで描画する構成は避けたほうが無難です
クローラは Yeti という名前で、正当性の確認は逆引きDNSで .naver.com かを見る方式です。IPアドレスでの遮断は推奨されていません。
6.韓国のメッセンジャーはLINEではありません
日本の事業者が見落としやすい点です。韓国で使われているメッセンジャーはKakaoTalkで、LINEではありません。
2026年第2四半期の開示によれば、KakaoTalkの韓国国内の月間利用者は約4,963万人。韓国の人口は約5,100万人ですから、ほぼ全国民規模です。LINEを運営するLINEヤフー(LY Corporation)の開示に、韓国は主要地域の区分として登場しません。
7.そもそも、検索から来ていない
ここまで検索の話をしてきましたが、記事の核心はここです。
観光庁の「インバウンド消費動向調査」(2025年 年間)に、出発前に役に立った旅行情報源を尋ねた設問があります。韓国からの訪日客の回答は次のとおりです。
| 情報源(複数回答) | 全体 | 観光・レジャー目的 |
|---|---|---|
| SNS | 47.05% | 48.70% |
| 動画サイト | 43.82% | 45.81% |
| 個人のブログ | 42.88% | 45.72% |
| 日本政府観光局の公式サイト | 4.05% | 3.88% |
公式サイトは4%です。SNS・動画・個人ブログが40%台で並ぶ一方、公式の情報源を「役に立った」と答えた人は、その10分の1以下です。
この数字が意味するのは、自社サイトを検索上位に押し上げる作業と、実際に選ばれる作業は別物だということです。旅行者の意思決定は、他人が書いた個人的な投稿の上で起きています。自社サイトは、名前を知られたあとに確認される場所です。
もう1つ、韓国について特徴的な数字があります。滞在中に役に立った情報を尋ねた設問で、韓国だけが「飲食店」(56.5%)を1位に挙げています。全国籍の平均、台湾、中国はいずれも「交通手段」が1位です。飲食に関する情報の出し方が、韓国からの集客では相対的に重いということになります。
8.実装で気をつけること
簡体字と繁体字は分ける
中国語をひとまとめにせず、zh-Hans(簡体字)と zh-Hant(繁体字)で分けて hreflang を指定します。中国本土向けと台湾・香港向けでは、字形も語彙も異なります。
フォントの落とし穴
日本語のページに中国語や韓国語を混ぜるとき、フォント指定を怠ると意図しない字形で表示されます。同じ文字コードでも、日本語・簡体字・繁体字・韓国語では字の形が違うためです。lang属性を正しく付け、言語ごとにフォントを指定する必要があります。
まとめ — 順番を間違えないこと
この2つの市場に向き合うとき、当社が考える順番は次のとおりです。
- 検索の外側から設計する。公式サイトが4%という数字を前提に置く。サイトは受け皿であって、発見の場ではありません
- 中国はサーバーの置き場所を最初に決める。ICP備案を取るのか、取らずに速度の不利を受け入れるのか。これが決まらないと他の施策が空回りします
- 韓国は継続を前提に組む。評価単位がチャンネルの蓄積である以上、短期のキャンペーンでは動きません
- 数字は出典を確認してから使う。シェアは条件次第で3倍以上変わります
そして、日本語で流通している解説をそのまま信じないこと。今回調べ直しただけでも、百度のsitemapや海外ホスティングの扱い、DaumとKakaoの関係など、公式ドキュメントと食い違う説明が複数見つかりました。いずれも公式の一次情報か、第三者の実測記録にあたれば確認できるものです。
サンリー合同会社は、中小事業者のコーポレートサイト・サービスサイトを
受託で制作しています。多言語サイトの設計のご相談も承ります
(ICP備案の代行や中国本土でのサーバー運用は行っていません)。